インハイを攻める投球ー高橋昂也を例にして解説します

Last Updated on 2021年3月30日 by wpmaster

投手は、投球を組み立てる上で、対戦する打者の内角を突くことが重要であると説かれます。インローは、投手は、最もドアスイングに近い投げ方で投げるので、打者も押手の指先の2回のしなりを作る間ができる。ここで言う内角というのは、インローではなく、インハイ、打者の胸元のことです。

インハイに投球することの根拠

その根拠として胸元に投げることによって、アウトローのボールに対して踏み込めなくすることが挙げられます。
しかし、これは正確ではありません。打者は踏み込まずに前膝をブロッキングして前足を軸に押手の肘を出せば、後ろの股関節の外旋が解けません。パーフェクトインサイドアウトスイングができるからです。
打者の胸元を攻めたことにより、打者に予備動作前のセットアップのときに前足にウェイトをかけさえずに、後ろの腹横筋に回転軸を作らせる。前肩が背骨の方に入る。押手の手首が耳のた高さで達せずに前肘が突っ張る。前の股関節が後ろの股関節を跨ぐ。前足の着地位置を探ると上体と下半身に捻転差(割れ)ができる。押手の指先がしならず、トップが静止する。前肩を開き、前肘のロック(張り)を解かないと押手の肘を推進できない。前足首の背屈までの間に、後肩が残らず、押手の肘がヘッド(バットの先)の内側に入る。押手の手首が伸びて(底屈)ヘッドがボールの外側(投手)寄りまで達しない。ピッチング、バッティング、走塁の何れにおいても、両肩の稼働域、ストライドの長さは、押手の指先の加速距離は反比例します。
一旦、前足を踏み込んでから、再度、前肩を背骨の方に入れているから、腰が引けているように錯覚する。前足を踏み込めていないと錯覚する。しかし、実際には、腰は引けていない。正確には、打者に踏み込ませて、ドアスイングにさせることが打者の胸元を突くことの根拠です。
ここでは、高橋昂也を題材にインハイを突くことの実証研究をしてみます。

高橋昂也が歴代ナンバーワンの左投手であるとすることの根拠

高橋昂也は、プロ一シーズン目のスプリングキャンプで高校生のときと比べて投げ方が大きく変わりました。どこが変わったのかというと”始動”が大幅に早くなった。更に言えば、始動前の予備動作が大幅に早くなった。ここで言う始動とは後ろの股関節(左投手である高橋昂也の場合は左の股関節)の外旋のことです。
高校生のときの高橋昂也は、他の投手と同じく前足のスパイクの外側で地面を蹴ってから投球肘をヒッチ(地面の方に引っ張る)していました。これだと前膝のブロッキング(前足首を背屈させて前膝を突っ張らせること)までの間に投球する方の手首(トップ)を頭の高さまで持ってくる間が十分にできません。故に、人差し指、中指、親指をしならせる間ができなかった。加速距離が長くないのでリリースの瞬間(投球腕の前腕部の2回目の回内)にMaxでボールを親指で押し込むことができなかった。ボールの回転数が上がらない。
ドラフト前に私が付けた高橋昂也の価値は、現在ほど高くはなかった。
原因は、どこにあるかというと、セットアップ(予備動作、始動前の静止した状態)のときに後足にもウェイトが残っていたからです。後足を軸に前足のスパイクの外側で地面を蹴っていた。
しかし、高橋昂也は、プロ一年目のスプリングキャンプでセットアップのときのウェイトのかけ方を前足100:後足0に変え、投球肘をヒッチさせてから前足のスパイクの外側で蹴る間を作った。高橋昂也は、全世界の投手の中で最も投球肘のヒッチが早く(速くではない)なった。後足を軸に前肩が背骨の方に入らなくなった。後足は、股関節にしなりを作って(外旋)、股関節の「しなり」を解く準備をして待機できている。
大腿骨を骨盤に刺して投球する方の手首を頭の位置まで戻す間がゆったりと作れるようになった。
更に、前膝をブロッキングする間ができる。後ろの股関節の外旋が解けない。その間に、人差し指、中指がしならせる間ができる(投球する手首の背屈、投球腕前腕部の1回目の回内)。親指をしならせる間(投球肘の2回目のヒッチ、投球腕前腕部の1回目の回外、上腕部の1回目の外旋=投球肘の推進、後ろの胸の張りを作る)。親指でボールを押し込むまでに親指のしなりを大きくすることができる。親指のしなりを解いてボールを押し込むと投球する手首が背屈する。親指のしなりが大きい程、ファオロースルー期(投球腕の前腕部の2回目の回外)における人再指、中指のしなりが大きくなる。人差し指、中指の指先が立つ。ボールにバックスピンが加わる。ボールにホップ成分が加わる。
後ろの股関節の外旋は、投球肘を推進させた後、親指でボールの内側で押し込む瞬間までの間に解いていく。
始動(後ろの股関節の外旋)の前に、投球肘をヒッチしていることが、高橋昂也がリリースする瞬間を除き、セットアップからフィニッシュまで、他のどんな投手よりも脱力できていることの根拠なのです。
その結果、セットアップからフィニッシュまで一貫して前足を軸に、投球腕を楕円運動させることとなった。

高橋昂也が側副靭帯を損傷した原因

アーム式(ドアスイング)の投手でない限りは、投球腕を下げてから後ろの脇を開けて投球肘を担ぐ家庭で、投球肘を逆Lにします。ここで投球肘の側副靭帯に負荷がかかります。床田は、後足を軸に始動(後ろの股関節の外旋)するので、前足を軸に始動する投手と同じく、始動のときに投球肩は下がります。床田は、前足首を底屈したときの両足の間隔は狭いですが、後足の軌道(ストライド)は短くありません。前足の着地位置を探る過程で、両肩がフラットになり後ろ肩が残ります。
どの投手も2回目の投球腕の前腕部の回内の前に、投球腕の前腕部をレイバックして投球肘を推進させていきますが、床田やクリスジョンスンのような投手はレイバックの角度が大きく投球腕が楕円ではなく円運動なります。逆に、島内や森下、前足を軸に始動していた頃のクリスジョンスンは、レイバックが小さい。床田は、そこから急ピッチで、スリークォーターの投手よりも投球腕の前腕部の回内をして投球肘を高くします。スリークォーターの投手よりも側副靭帯に負荷がかかり、手術することとなりました。
それでは、投球肘を下げろということかと言うと、そうではありません。床田が修正しなければいけないのは、セットアップ、予備動作、始動です。
高橋昂也の場合、トップポジションに至る過程で1回目の投球腕前腕部の回内をした後、投球肘をヒッチする間が作れます。前肩を下げて投球肘を担ぎ、ゼロポジションの角度で投げられていますが、投球肘を担ぐ前に側副靭帯に負荷がかかります。これはフランスアにも当てはまります。股関節の外旋による損傷にしても、側副靭帯、上腕部のローテカフの損傷にしても、始動を早めて横の動きを削って労働量を減らして脱力しても完全に避けることはできません。

ツーシームイコールシュートボール(シンキングファストボール)ではない

大部分の投手は、フォロースルー期に人差し指と中指を付けてボールの外側(三塁側ではなく、打者寄りということですよ)を縦に擦ってフォーシームを投げます。大部分の投手が投げるフォーシームは実際には、カットボールです。
ボールを押し込む瞬間の親指のしなりを解くのを早めるとアウトハイにボールが回転していきます。ボールを押し込む瞬間の親指のしなりを小さくするとシュート回転します。
カットボールの変化量が小さいほど、優れた投手であると私は考えます。
人差し指と中指を開けて握って投げるツーシームは、人差し指が親指のしなりを解くのを邪魔しますので、押手の肘を出してから後ろの股関節の外旋を解くパーフェクトインサイドアウトスイングで投球腕の楕円運動を行うとアウトハイにボールがスライダーとカットボールの中間の回転していきます。ツーシームは、必ずしもスライダー成分よりもシュート回転が増すボールではありません。

いかにしてインハイ、アウトハイを投げ分けるか

右投手で、バックドア(右打者のインコースのシュート)、フロントドア(右打者のインスラ)を投げる東尾や黒田は、これらを投げるとき、プレートの一塁側に右足のスパイクの外側を添わせます。セットアップ(アドレス)の段階で、前肩が背骨の方に入り、後足にウェイトがかかります。後ろの腹横筋に回転軸ができます。
左打者で、左打者にインスラ、インコースのシュートを投げる岩瀬や森浦も、プレートの三塁側に左足のスパイクの外側を添わせます。セットアップの段階で前肩が背骨の方に入り、後ろの腹横筋に軸ができます。
森下も、オープン戦でソフトバンク打線に打ち込まれるまでは、セットアップのときに後足にもウェイトが残り、スリークォーターの投手ほどではありませんが、前肩が背骨の方にわずかに動きました。押手の肘を出す前に後ろの股関節の外旋が解けて、床田、中村恭平、遠藤ほど前膝は屈曲しませんが、大学のときからの課題であった前膝のブロッキングがクリアできていませんでした。森下は、ソフトバンクス戦からレギュラーシーズン開幕までの間にセットアップのときのウェイトのかけ方を変えました。森下は、最後の4試合の登板の前までは、カーブを投げるとき、セットアップ期に投球肘が伸びて後足にウェイトが残り、リリース直前に親指がしならず、右手首が底屈して投球腕の上腕部が凹み、人差し指、中指にボールを引っ掛けて投球をワンバウンドさせていた。すなわち、投球動作の上では、森下が高橋昂也に追い付いた。
大道も大学の最終シーズンの中盤までは、セットアップのときに後足にウェイトが残り前肩がスリークォーターの投手ほどではありませんが、前肩が背骨の方に入りました。
ドラフト前にそこを修正して、前膝のブロッキングの課題をクリアしつつあり、外国人投手のように前膝がしなるようになり、親指、人差し指、中指のしなり、フォロースルー期の前腕部のしなりが大きくなり、加速距離が長くなった。
投球動作の開始前にインコースを投げるときに、アウトコースを投げるときの動作との差異が顕著になっているので、打者は、ゆったりと手首を頭の位置に戻す間ができます。
更に、上に上げた東尾、黒田、岩瀬、森浦は、前肩を開いてからでないと投球肘が推進できませんので、投球する手の指先がしならずにドアスイングになります。
これでは、二段ステップの打者、前足の着地位置を探る打者でも前膝をブロッキッグをする間ができ、前の股関節、後の股関節を引っ込めることができます。それにより、ヘッドが加速して押手の肘が前の股関節の前に出ます。ストライドの長い、トップが深い(=前肘が張る)、両肩がフラットになる、ドアスイングに近い、レベルスインガーでも対応可能になります。
インハイに投げる場合には、アウトハイに投げるときと親指のしなりに差異を付けることが必要であることを述べましたが(インハイに投げるときは、親指のしなりを解く。アウトハイのときは、親指のしなりを解かない)、それでは、投球動作のどこでアウトハイに投げるときとインハイに上げるときとの差異を付ければよいのでしょうか。以下、私見を述べます。
まず、セットアップの段階では、前足100:後足0でウェイトをかけます。前肩は、少しオープンスタンスにします。スイング少しする方の手首を他人に真横に引っ張られると、真横にのめらなければいけません。このことは打撃でも同じです。これは、アウトハイに投げるときと同じです。
投球肘をヒッチしてから前足のスパイクの外側踵寄りで地面を蹴るのもアウトハイに投げるときと同じです。
前膝をブロッキングして投球肘を出した後に後ろの股関節の外旋を解くのもアウトハイに投げるときと同じです。
アウトハイに投げる場合もインハイに投げるときも、セットアップからフィニッシュまで一貫して軸足は前足です。後足が軸になることは一度もありません。
後ろの股関節の外旋を押手の肘がヘソを通過する前に解いてインハイに投げる、ヘソを通過した後で解いてアウトハイに投げるという手段も考えられますが、私は、後ろの股関節の外旋を解くのは、アウトハイと同じの方がベターであると考えます。
どこで差異を付けるかと言えば、親指の基節骨を加速させてボールを押し込む直前に、アウトハイに投げるときは、両股関節をぶつけて、フォロースルー期に、後足を順方向にターンして両足をクロスさせる。
インハイに投げるときは、両股関節をぶつけた後、両股関節を剥がして、後足の踵で逆方向に地面を蹴り始めます。
中﨑のように投球肩の真横で四股を踏んでしまうと、後足にウェイトが残り、投球腕の楕円運動に急ブレーキをかけてしまうのでここでも投球肘の側副靭帯投球腕上腕部のローテカフを損傷します。
蹴り始めてからは、高橋昂也や島内のように右足を蹴り上げてフィニッシュします。
投球動作の最後の最後で差異を付ければ、打者は、着地位置、着地のタイミング、股関節の外旋の解除の調整によるスイングの調整の間がなくなります。

但し、森下にしても高橋昂也にしても、二段モーションを採り入れると、2回目に前膝をアップした後に後ろの腹横筋に回転軸ができて後ろの股関節を外旋します。わずかに前肩が背骨の方に動く。前肩を前肩関節に格納してからでないと投球肘が推進できません。よってトッポポジション以上の動作が急ピッチになり指先がしならなくなります。森下も高橋昂也も二段モーションは廃止する必要があるだろう。