[クローズアップ解説]クイックで投げたアンダースンVS村上宗隆

マツダスタジアムで行われた広島対ヤクルト4回戦
広島の先発は、ドリューアンダースン、ヤクルトは、石川雅規

サービスを産み出すのは、肉体の稼働である。地面がサービスを産み出すものではない。しかし、取り扱う材料が異なれば、肉体の稼働が異なってくる。そこで、今回は、今季新たにNPBの球団と契約した外国人投手の一人であるアンダースンの日本のマウンドで行った投球について書いてみたいと思う。

ターリーとアンダースンの違い

ヤクルト打線は、昨シーズン、村上の後に、サンタナ、オスナが控えていた。村上が四球を取ってつないでくれれば、村上自身は、左手首を持ち上げていく過程で、首がホームベースの方に入り、ストライドが広がり、左肘が突っ張る。しかし、村上が「アウトにならずにつなぐ野球」「進塁打を打つ打撃」「併殺崩れを産み出す打撃」をしてもヤクルトに点は入り得る。
前の試合でも登板した広島の新外国人投手であるターリーは、左腕と背骨の交わる角度がスリーォーターである。左肘の高さはサイドハンドに近い。前肘を後ろ肩の方に入れ、前肩を地面に被せ、トップを作る前より先に前肩を開き、後ろの股関節を内旋することによって、投球する手の親指のしなりを解くと、人間の投球肘は下がる。投球する手の親指の加速距離が短くなる。すなわち、失速する。故に、当該投手は、ボールを中指の第二関節に引っ掛けてボールをリリースできないので、投球する手の人差し指の付け根、人差し指の付け根でボールを叩き、投球がインハイに外れる。当該投手が左投手の場合、左手の人差し指の付け根でボールを追っ付ないとストライクゾーン内に投球できない。よって、打者は、トップを作る間がゆったりと作れる。ドアスインガーでもトップを作る間が作れる。打者は、踏み込まずに、後ろ肩を残して、内の投球も外の投球をスイングできる、アウトローのワンバウンドを振らない。捕手が「四球を出すよりは本塁打を打たれる方が益し」としてストライクゾーン内の投球を要求すると、当該投手は、要求どおり本塁打を打たれてくれる。中軸を歩かせても、他の投手と交代しない限りは、エンドレスで相手打線につながれる。ソロ本塁打を打たれた後も次の打者にも安打を打たれ、エンドレスで繫がれる。ヘルウェグ、バードと同じく、ターリーは、打者の頭に近いビーンボールを投げないと打者から空振りが取れない。ビーンボールには、故意は介在しません。故意は実体のない観念です。しかし、ビーンボールを振ることによって打者のストライドが狭まる。次にアウトローのストライクゾーン内に投げても、打者は、次のアウトローのストライクの投球の軌道の外側にヘッドを入れ、引っ張ることができる。ビーンボールを投じて頭にぶつければ、ぶつけられた打者は、労働力が再生産できなくなり得る。また、現在では、ファストボールを打者の頭にぶつけた投手は退場させられる。広島の捕手は、打者の頭にぶつけなくてもインハイに構えて死球を与えれば、捕手自身が次の打席で相手バッテリーに背中にぶつけられる。手首や指に投球が当たれば、労働力を再生産できなくなる。広島の捕手は、真ん中に構えざるを得ない。村上が審判にチクったのかどうかはわからないけれども、ボールに唾を擦り付けたターリーは、審判にボールを取り上げられ、新しいボールに交換されてしまう。ビーンボールを投げるのが難しくなった。
一方、アンダースンは、メジャーでの投球動作を分析すると、インサイドアウトスイングで投げられるオーバーハンドの投手である。申告四球を含め、ストライクを投げずに打者を歩かせても、ストライクゾーンから外れて四球を出しても、後続の打者の内、弱い打者にストライクゾーンに投げて確実にアウトを稼ぎ、走者を本塁に還らせない横綱相撲が取れる投手であると評価できる。しかも、サンタナは、故障で帰国している。下位打線は、二塁及び三塁まで走者を進める打撃ができても、3アウトを取られる前に本塁に走者を進めることが難しい。ヤクルト打線は、総じて、進塁打にしても、インサイドアウトスイングではなく、ヘッドが下がってヘッドアップして打っている。村上がつなぐ野球を実行すれば、現在のヤクルトは、無得点で終わり得る。村上としては、振っていかざるを得ない。
現在でも村上は、左手首を頭の高さに持っていく過程で、首の向きがホームベース方向に入るし、右肘も突っ張る。オーバーハンドの投手がインサイドアウトで投げれば、左打者のインロー以外、どのコース、奥行き、緩急、どの高さを使っても、引っ張られて本塁打を打たれることがまずない。捕手は、グラブを持つ手首を底屈させさせなければ、自分が投球をグラブの小指側で叩き易い位置に構えて差し支えない。投手主導でボール先行のカウントで左打者のインロー以外のストライクゾーン内に投げさせて構わない。オスナ以外の下位打線が弱いとしても、村上を歩かせる必要はない。
後述する場面で、アンダースンは、カウントは、2-0から、アウトハイ(左打者のインハイ)にカッター(終始右手人差し指を内転させているのでフォーシームではない)を投じる。

アンダースンのクイックモーション

佐々岡、髙橋健、横山にとって、広島のエースは、建前では、大瀬良であるが、忖度抜きで言えば、森下とアンダースンである。森下とアンダースンの要望を受け容れて、松田元は、業者の作業員を使い、マツダスタジアムのマウンドには、粘土を従来よりも、多く、砂を少なく配分させている。メジャーリーグのスタジアム並みにマウンドが固められている。
イニングは、1回表二死一塁、打者は、四番村上宗隆
アンダースンは、左足のスパイクの内側、右足のスパイクの内側でエッジをかけ、僅かにオープンスタンスにしてセットアップする。右足のスパイクの外側は、プレートの一塁側に沿わせる。右手親指の第二関節を含む基節骨と右手中指MP、第二関節を含む基節骨でボールを握る。右手親指の指先は、橈側外転している(=ボールに当てていない)。アンダースンは、右腕前腕部、左腕前腕部を回外するとき、左打席の外側のライン方向に頸反射している。左膝は上げずに左足首を背屈している。しかし、アンダースンは、右足が僅かに踵体重になる。右手首は、骨盤を通過せず、骨盤の横で止まる。右腕前腕部を回内したとき、右足踵で地面を荷重した分、右足首の底屈がタイトになる。右足外踝にウェイトがかかり右足前脛骨筋が回外(内反)できているが、右膝が右足つま先方向に折れる。スタンダードWで右肘をつまみ上げる前、左肩と首が交わり頸反射しているが、首が左打席の内側のラインに向く。両肩を結ぶラインと骨盤のニュートラルポジションの完成度は低くはないが、左腕上腕部の内旋に対するブレーキが僅かに緩む。右肘をつまみ上げ、右肩関節を外転する前に左腕前腕部を回外する。右足がインエッジではあるが、Cアーチの崩壊は食い止めている。アンダースンは、ここでは、左打席の外側のラインに頸反射している。左足は、スパイクの外側から入射する。右肘のアクセレーション前に左股関節が外旋する。アンダースンは、最大外旋位、右手親指のしなりを解いてからも頸反射している。リリースの直前に左膝も突っ張っている。リリースの瞬間は、右腕と背骨の交わる角度、右肘の高さは、オーバーハンドの範疇であるという評価はできるが、メジャーで投げていたときよりは、スリークォーターに近くなっていた。右腕上腕部も凹んでいる。両股関節をぶつけたときに右股関節が伸展している。右手小指が立たず、右手小指第二関節の内旋に関する加速距離が短くなる。右足の拇指球で地面を後ろに蹴ってしまう。バックスピンだけでなく、トップスパピンの量も減じている。

村上宗隆の現在位置

村上は、左手親指の基節骨でグリップを荷重してヘッドをホームベース方向に倒し、左手人差し指を外転して左手首をコック(背屈、ヘッドアップ)する。コックすれば、左手小指第二関節を180°内旋する間が作れない。投手のクイックが速ければ、村上は、確実に前肘、前肩が背骨の方に入る。アンダースンも外国人投手の中ではクイックは益しな部類であり、実際、村上も前肘が後ろ肩の方に入りかかった。しかし、アンダースンは、右腕前腕部を回内したとき、右膝が折れた分、右手首を持ち上げるまでの間に、村上に以下の動作を行う間を与えた。左手親指基節骨でグリップを叩いて投手方向にヘッドを向ける

    • 左手中指の第二関節を内旋し、左肘をヒッチする。
    • 左手親指基節骨でグリップを叩き、左手首を頭の高さに持っていく。

その後、村上は、右足のスパイクの外側から入射し、ヘッドステイバックし、右股関節を戻して、アウトハイ(左打者にとってはインハイ)の投球に対し、左手親指基節骨で、グリップを叩いた。
村上は、右中間スタンドに本塁打を打った。

結論

アンダースンは、右腕前腕部を回外する(右肘がヒッチする)ことによって、左膝を上げずに左足首を背屈し、右股関節を外旋することができている。プレートの三塁側に右足のスパイクの外側を添わせ、左足を外側から入射しても、右股関節の外旋、内旋、左股関節外旋更に戻し入れに関する両股関節の負荷を増大させずに済む。プレートの一塁側よりも高いプレートの三塁側を踏みことによって、右手首を持ち上げた後、左足のスパイクの外側を入射する前に右膝が折れることがなくなる。右足の拇指球又は小指球で地面を後ろに蹴らずに、両足の内踝をぶつけることができる。右足踵で地面を荷重しなければ、ニュートラルポジションのとき、首が左打席の外側のラインから左打席の内側のラインの方向に動くことがなくなる。ニュートラルポジションのところで、左腕上腕部の内旋にブレーキをかけることができる。よって、左手親指CM関節から左手小指の回転半径が短くなり、左手小指第二関節及びMP関節の内旋に関する加速距離が長くなる。分かり易く言えば、左肩を開かなくても、左肘を抜かなくても、右手小指基節骨を打者に向けることができる。右手親指がしなり、右手親指のしなりを解く前に、右肩が残るのである。右手親指のしなりを解くと右手親指が立っていくのである。右手親指が加速すれば、バックスピンが増し、右手小指が立つ。右手小指が立てば、右手小指でボールを擦れば、右腕前腕部がしなる(回外)。